2018 IRONMAN KONA World Championship 感想文
AM3:00 起床
前日はスコールがあったみたいだ。バイクカバーをつけておくべきだった。
ルーティンのサトウのご飯2パックを豆腐味噌汁で食べる。ランでの下痢対策に当日は消化に時間のかかる食物繊維と脂質はカットする。
シーサイドホテルは会場目の前という事で、自室で5時頃までのんびり過ごす。
トランジットエリアに入るためにはボディマーキングが必要だ。
場所はアワードパーティを行ったところ。
アスリートバンドを見せナンバーシールをもらう
その先がナンバーシールを貼ってくれる所なのでそこでボランティアに貼ってもらう。いたせりつくせりだ。
その後体重測定をし、トランジットへ向かう。
真っ暗なのでヘッドライトが必須。
バイクへ空気を入れて、ジェルをセット。ハイドレーションに水を…と思ったら忘れた。トランジットで水を配布しているのでハイドレーションに入れてもらう。
その後手荷物を預けるのだが、ポンプを中に入れるのは禁止らしい?
AM6:00
スキンスーツを着る。
ワンピースのトライウエアなので上半身は脱いだ状態で背中に丸めてスイムスキンを着た。
プロでも上半身は脱ぐ派、脱がずにスイムスキンを着る派が分かれるがスイムスキンが既製品でフィット感に欠け、着慣れていない事もあるし僕は胸の圧迫感を減らす為に上半身は脱いだ。スイムが苦手なら尚更だと思う。
プロはJosh Ambergerを始め大多数が上半身は脱いで着ていた。
ただJavier GómezやLucy Charlesはトライウエアを着たままスイムスキン を着ている。
それとスイムスキンを買った後一度着て試詠した感じ、スキンスーツも結構擦れるので脇やうなじ、股にワセリンを塗りたくる。キッチンペーパーにワセリンを乗せてもらえるので手が汚れない。
エース栗原さんと会う。
「お互い頑張ろう」とちょっと喋る。日本語を話せる嬉しさ。
AM6:30
スイムエリアへ
この時間でも入場待ち最前列くらいだ。プロのスタートを見れるかと思ったら柵が高すぎる。
男子プロがスタートすると入場開始、みんな岸でタラタラしてたら「早くスタート地点に行け」と怒られる。
スイムのスタート位置3つのブイの間で、スタート位置は散々悩んだがコースロープとは逆の1番端に決めた。が、着いてみると端に密集している。
真ん中のブイと外端のブイの間が空いていたので前から2列目くらいの所で待機。
不安だった立ち泳ぎもキックとブレスキックの両方を使ったりスカーリングしたりしてなんとかなった。
朝陽が左側にあって海の反射と周りの景色が幻想的。動画でいつも羨ましく見ていた光景そのものだ。
スタート5分前
なんだか混んできた。かと思えば真ん中ブイの所がガラガラになってたのでそっちに移動
1:00...
30...
10...
5...
3...
2...
1...
ドワッとスタートする。
前列にいた人は既にかなり前、ある程度のバトルは覚悟していたが周りが速すぎて相手にもされない。というか、気づけば僕一人
KONAのスイムは直線1周回なのでスタート位置による有利不利があまりない。
そして横にかなり広く、その中で目印になるのはイン側のコースロープのブイのみ。直線なので折り返し地点のブイは遥か彼方でとても目印にはできない。
その為何が起こるかというと
迷子になる
エイジ男子1500人以上が一斉スタートの中、アウト側からコースロープが視認できるかというと、なかなか出来ない。
集団に紛れてドラフティングしようにも完全に出遅れていたので丁度いいペースのグループが無く、折り返し地点まで泳ぐ。
しかも1kmくらい泳いだところで無性にトイレに行きたくなり、集中力が完全に切れてしまった。
KONAの海は綺麗だと言うが、連日濁っていてレース当日もあまり透き通った感じではなかったが、海底のダイバーが見えるくらいは澄んでいる。
折り返しに差し掛かる。みんな実力者だからかコーナーでぶつかり合う事は無い。
折り返すとやっとちょうど良いグループを見つけドラフティングするが、ペースが落ち始めたので他のグループにスイッチとやっと状況を理解してコースロープ沿いを泳ぐ。ただし相変わらずトイレに行きたい。
僕は右呼吸でスタート時、太陽は左にあったので折り返してから目潰し食らうかと思ったら太陽の位置は斜め後ろにあったので目潰しは無かった。
折り返して半分過ぎる頃にエイジ女子のトップグループが紛れてくるようになる。
紛れるといってもただ抜かされるだけだが、お互いコースロープ沿いを泳いでいるので男が並んで泳いでいる所に割って入ってくる。女性が、だ。
もう恐怖でしか無い、本当に染色体がXXなのだろうか。
やっと岸が見えてきた。
なんなもうトイレに行きたいとか、迷子になったとか、怖い女性に割って入られたとかありすぎて全然楽しくなかった。
しかも
スイムアップの時背後から女性にFuck混じりに「早く行け!」と罵声を浴びせられ、完全にビビる。
タイム1時間21分9秒
夢の舞台で過去最低ペースを樹立する
果たしてスイムスキンの意味はあったのかw
T1
トランジションバッグを取り着替えテントへ。
まずはトイレを済まし、スイムスキンを脱ぐ。
スイムの消費分補給の意味でPowerBar JELを飲みながら、心拍計を装着してバイクシューズを履いてバイクラックへ。
僕はバイクシューズはバイクにつけない派だ。スイムアップしたてで平常心でない状態でバイクに乗ってからシューズを履こうとしたら接触や落車のリスクがぐんと上がると思っているからだ。優勝争いをしているわけでもないし…
バイクをピックアップして乗車エリアに向かうが途中ペダルに足をぶつけてしまいクランクが逆回転、チェーンが落ちてしまう。
チェーンが落ちたら即停止。これを守れば変に悪化することがない。トランジットエリアのボランティアの人に「大丈夫かー?落ち着いてなー」と心配されながらチェーンを戻して無事乗車エリアへ
そしてスイムアップしてから声援が耐える事がない。
レースの実況、ボランティアの応援、観客の拍手。1秒たりとも途切れることがない。
僕は去年から「感謝の気持ちは笑顔で返そう」とレースでは取り組んできた。でも去年から今回まで最後まで笑顔でいられた事はなかった。どうしてもランで30kmを超えてから苦痛の表情になってしまい、最後までお礼どころか笑顔を見せることすらできなかった。
でも今はKONAだ。人生最後という気持ちで乗り込んだレース、今回こそ笑顔とお礼を絶やさずゴールしたいと思いながらバイクに乗り込んだ。
タイム7分8秒
バイク
乗車直後は接触のリスクが高いので周囲に注意して走り始める。
一度QUEEN Kに出てMAKALA BLVDへ戻るコースなのだがMAKALAの下りの段差でフロントハイドレーションボトルが吹っ飛んだ。今まで練習で起きたことのない事態。そしてなによりその落ちたボトルで落車が起きないか心配だった。
でも引き返すわけには行かず、MAKALAは応援が所狭しと居るので「拾ってくれ」と願うしかなかった。
ボトルは何かしら落下防止策を付けるべきだと痛感。自分の立場で落ちたボトルを踏んで落車したら最悪だし、他人を落車させてしままってはどうしようもない。
下り終えるとKUAKINI HWIへ走る。すぐ折り返してくるが行きは登りの為かなりの集団になっていて「ノードラフティングとは?」みたいな感じになってる。
折り返してQUEEN Kへ向かう最中にやっと集団が伸びてきてそこそこ走れるようになってきた。
そしてここでまた今度はリアボトルが吹っ飛んだ。リアボトルはプロファイルデザインのボトルケージなので吹っ飛びようがないのだが、もしかしたら前日のスコールでバイクが濡れていたせいで滑りやすかったのかもしれない。
やはり雨の可能性はなくとも夜露など濡れる場合はあるのでバイクカバーは必須だった。
QUEEN KへはいるMAKALAの登りでは所狭しと観客が並ぶ
観客のテンションは既に最高潮で思わずこちらも「Yeahhhh!!」とハイタッチしながら登る。
僕がノリノリで答えると観客もさらに湧く。僕らがレース中できる事は観客を自ら引っ張って沸かせる事だ。
登り終えてQUEEN Kに入るが早々にボトルが無くなってしまい、給水するすべがない。
第1エイドはやや離れていて20km程先だ。ただT1で水は飲んだし、乗車してからボトルが吹っ飛ぶ前に少し多めに水を飲んでおいたので影響はなくエイドまで繋ぐことができた。
エイドでは水・Gatorade・コーラたまにRed bullを配っているが、ボトルの径が細いのでリアボトルゲージに挿しても吹っ飛ぶ。
Gatoradeはなんとか保持できるが美味しくないし、水派なのでフロントハイドレーションのあったエアロバーのボトルケージに水ボトルを挿した。
エイドの品はその年のスポンサー次第なので他の年は何になるかわからない。
QUEEN Kに入っても局所的にグループができてしまっている。
KONAはフラットコースと思われがちだが、平地はどこにもない。常に登っているか下っているかだ。その為取得標高は180kmで1700mになる。
なので登りでどうしても凝縮されてしまってグループが出来てしまう。
そしてなによりKONAに来る人は皆実力者だ。どうしても力量が近くなってしまうので中々抜こうにも抜けない。
かといってドラフティングするのはアンフェアだ。多少踏むのはやむなしとフェアプレイ優先で走り続ける。
40km
なんとなく固まりが解けてきて快適に走れるようになってきて景色を楽しむ余裕ができてきた。
右は火山、左は海、そして目の前一直線に続く広い道。
動画でしかみたことがない景色が目の前に広がっていた。まだ自分が今まで羨んで観ていた動画の舞台に居る。と言うことが実感できず、夢の中のようなフワフワとした感情だった。
そんな頃、何かかが背後からバババババ!と音を立てて近づいてくる。「道路規制してるのに暴走族かよ」と思って横を通ったらバイクに乗ったマーシャルだった。
その頃エイドで落車が発生していた。多分もう走れないような状態だった。
多分他の選手と接触したのだろう。明日は我が身と、エイドでは周囲をしっかり確認して走るよう心がける。
KONAはKONA windと呼ばれる強烈な横風が有名で、女性など軽い人は風で横滑りしてしまう事もあるらしい。
ただこの日は無風。もちろん風はあったけど普段霞ヶ浦で嫌という程向かい風を浴びている僕にとっては無風レベルの風速で、気温も高すぎず、宮古島トライアスロンのような気候で熱中症の心配はなかった。
今年の夏は暑い中毎回熱中症になりながらトレーニングを積んで暑熱順化をしたつもりだったが、10月になると急に冷え込んできて暑さを忘れてしまうのが気がかりだったが暑熱順化の効果はあった様だ。
ボトルを1本しか持てない状況だったが、KONAはエイドが多いので
エイドで1本貰ってボトルケージに挿す→もう1本貰って半分くらい飲んで捨てる
のローテーションで次のエイド手前で飲み切ったり半分くらい残った状態のボトルを捨てていたので水分は十分足りた。
70km
QUEEN Kを終えてAKONE PULE HWYに入る。
QUEEB Kは上下にウネウネとしているので、下った勢いで登りに入れるが、AKONE PULEはHAWIの折り返しまでほとんど登りだ。とは言っても斜度は緩く、距離も短い登りばかりなのでベースバーに持ち替え、ケイデンスを上げ淡々と登る。
その頃周りを見渡すと
女・女・女・僕・女
女しか居ねぇ!
スイムが遅すぎてバイクスタートの時点で5:5位だった男女比
その後スイムは同時だったものの、バイクの遅い男性が脱落した結果…女性には見えないガタイの女子トップグループに囲まれる。
本当に男がいない。女子高が共学になった初年度の気分。
でもそんな漫画の様なパラダイスではない、本物のアスリート感というか、女性ながらエイジのトップのすごさを実感。
実際エアロポジションでガンガン踏んで坂を登っていく。冷静に考えてブラケット持って回した方が速いし負担が少ないけど、カッコイイ、憧れる。
90km
HAWIの折り返しを通過
ここにSpecial needsがあるが、何も預けていないのでパス。
僕はレース中はジェルしか摂らない。そのジェルもジェル用のボトルを1本用意して180km分のジェルを入れている。
僕の使っているオリジナルジェルの紹介はこちら
これを使い始めてレースで脚が攣った事がない。
Special needsやエイドでは受け取った時ふらつく人がいるので、道路の中央に寄って危険回避。
折り返しの後QUEEN Kまではほとんど下りだがさすがKONA、下りでも踏まないとどんどん抜かれる。
下りでもパワーを維持しつつ、ドラフティングにならない程度に人の後ろにつきながら加速して抜く事を繰り返して順位を上げていく。
往路でも通ったQUEEN KとAKONE PULEを繋ぐ最初のコーナーは長い下りの後のコーナーなのでしっかり減速して安全にクリアする。
QUEEN Kに戻ってくるともう残り80kmくらいだ。この頃になるとグループがあっても2~3人になっておりかなりばらけていて周りを気にせず走ることができる。
QUEEN Kに戻ってきてちょっとした頃、緩い登り登り切ってまた下るという時、目の前に絶景が広がっていた。バイクで1番感動した瞬間だった。今でも鮮明に脳裏に焼き付いている景色。
初めてKONAに行く人は復路こそ楽しみにしてほしい、往路景色が綺麗なポイントが多い。そう思えばバイクが辛いと感じなくなるかもしれないしね。
130km
スコールが降ってきた。灼熱と言うほどではなかったが、火照った身体に染み渡る。
丁度登りのところにFinisher pixがいたのでハイチーズ
KONAの前、ローラーで180kmの維持できるパワーを計っておいた。5時間エアロポジション維持したまま(笑)
まさに苦行だったがその結果200wくらいだったので、後のランを考えてアベレージ180wを目指して走っていたが150km位で178w程と順調なペース配分
脚に疲れはなく「ペース上げてもいいな」と感じたので190wにペースアップ
150km
女性ばかりだったのが徐々に男も混じる様になった。ペース配分を間違えた方々だ。
「お疲れ様でーす、回収しますね~」
と脳内アナウンスしながらどんどん回収してく。ロングのバイクはこれが楽しい(笑)
見慣れた景色が近づいてきた。ジェル用のボトルの中身を全部飲んでランに備える。
スイムとは打って変わり、もう楽しくて楽しくてあっという間の180kmだった。
そしてあと42km走ったら夢が叶うという寂しさの様なものを感じつつバイクフィニッシュした
タイム5時間19分44秒
しっかり後半ペースアップ出来て、バイクは実力を発揮することができた。
T2
普通にシューズをペダルから外して降車、ボランティアにバイクを渡した後、立ち止まってシューズを脱いでトランジットしに向かう。
シューズをバイクにつけたまま降車するのとおりた後シューズを脱いで走るのは大してタイム差が無いので、とにかくノートラブル重視で進行していく。
この時タイムは6時間48分
半分くらいバイクラックが埋まっていた。
バイクでは一度もトイレに行くことなく、T2に着いた時も尿意はなかったがどうせ1回くらい行くことになると思い、トイレが空いていたので済ましてしまう。
トランジッションバッグを受け取って着替えテントへ
とりあえずPowerBar JELを1個食べる
靴下を履いて靴紐を結んで「さあ!ショータイム!」と気合いを入れ直す。
泣いても笑っても42kmだ。
着替えテントを出ると周りのボランティアの声援が凄い。
もう既にレースが終わる寂しさに泣きそうになってる。
タイム5分16秒
ラン
大歓声の中AL’I DRへ向かう。
側道には色々な国旗が見える。世界中のトップ選手だけが集まるKONAならではの光景だ。
QUEEN Kに入るまでは観客が絶える事なく声援が飛ぶ。そして観客もド派手な格好をしたり仮装したり楽しみまくっている。まるで異世界だ。
「fuuuuuu!!」と叫ばれたら「yeahhhh!!」と返し
「Awesome!!」と言われたら「Thank you!」と返す。
ハイタッチ求められたら全力で返す。
もうランはお祭りだ。
「辛い」とか「痛い」とかそういう感情は一切無く、「楽しい」で埋め尽くされたランニング
MAKALAまでの道のりまでは時よりホースで水をかけてくれる人がいるが、ソックスを濡らして豆を作りたくなかったのでやんわりと断って水かからないように通る。
エイドではキャップを脱ぎ、氷をキャップの中に入れて被る。
これは去年KONAでDaniela Ryfがやっていたので今回初めて取り入れてみたが、頭が冷えるとかなり冷えるのでオススメ。
合わせて背中にも氷を入れた。エイドで背中を広げて「Ice come on!!」とお願いする。めっちゃ冷たい。「Ohhhhhh!!!」とリアクションすると盛り上がる。
KONAめっちゃ楽しい。
ランスタート時は気温が上がっていたので一回のエイドでコップ2つは貰って飲んだ。
途中タトゥーを入れた屈強な男数人がサンスクリーンを塗ってくれる場所があった。
べつに塗ってもらう必要も無かったけど、せっかく塗りに来てる(笑)のにスルーするのもつまらないし顔にべったり塗ってもらう。
めっちゃ盛り上がる。顔は舞妓さんみたいになってたに違いないが楽しければいいのだ、KONAなんだから。
ランは5:20ペースで刻む計画なので、序盤飛ばしすぎないように心がけた。
バイクを終えて疲れてるはずなのに以外と脚は軽くてつい飛ばしてしまうので気をつけよう。
QUEEN Kに入る為MAKALAの坂を登る。相変わらずここの盛り上がりが凄い。
結構な坂なので無理せずピッチを上げて走る。坂の中腹まで来た頃だろうか?Daniela Ryfが下ってきた。すれ違う時ハイタッチを求めたらしてくれた。でも下りの勢い相まってめっちゃ勢いの良いハイタッチで痛いw
QUEEN Kに入る曲がり角でなんか爆音で音楽が流れてるし、観客がハイになりすぎて選手そっちのけで騒いでる。
とりあえずハイタッチしながら駆けて行くとみんな答えてくれる。楽しい。
QUEEN Kに入ると観客は一気に居なくなるし、ひたすらアップダウンの続くランの始まりだ。
登りでは無理しすぎず、淡々と走る。まだペースは維持できている。
エイドでは水、たまにゲータレードを飲んで氷を帽子と背中に入れて貰って体をとにかく冷ます。ただ出来るだけ歩かないように最小限のロスでエイドをこなす。エイドは歩いた方がいい場合があるが、アップダウンの連続するランコース、必然的に登りではペースが落ちるので休憩にもなる。なので今回は出来るだけ走った状態でエイドを通過するようにした。
観客は減り、退屈なコースではあるが夢にまで見た景色だ。
「疲れた」「早くゴールしたい」なんて気持ち微塵も浮かばない。
「まだまだ楽しんでいたい」そう思いながら一歩一歩噛み締めながら走り続ける。
20km
まだ1km/5:20で刻めている、順調だ。足は痛いけど意外と素直に動いてくれる。
この辺りでQUEEN Kから外れ、折り返しのNATURAL ENERGY LABへ向かう。
ENERGY LAB手前のMAKAKO BAY DRには大きなエイドがあってボランティアや観客が沢山いる。
僕はいつもランのみ、カフェインを摂るようにしている。使うのはいつも「Meitan サイクルチャージ」
これにはカフェインが200mg配合されているが、200mgというのが肝で効能である覚醒・鎮痛作用・ミトコンドリアの活性化などは200mgのカフェイン量が最適だと科学的に証明され、それ以上一度に摂取しても増強されるわけではないらしい。
それとカフェインはレースを通して定期的に摂るより、一度に用量摂取した方が効果がある。ある意味ドーピング的な意味で、ちまちま摂取して微妙な変化を期待するよりも一気に摂取してガツンと効かせた方が肉体的にも精神的にもスイッチが入る。
そして僕は覚醒と鎮痛作用目的で摂取してるが、レースで何回か使ってわかった事は、限界を超えてからでは意味がないという事。つまり肉体的にまだ余裕があるが、精神的に限界近くなった時がベストだと思ってる。カフェインが効くまで20~30分位かかる。これは胃の中に物があるかで変化する。空きっ腹なら15分くらいで効くし、物が入っていれば30分くらいかかる。
この効くまでの時間を逆算し、25km地点でカフェインのブーストが効くように20km地点で摂取するようにしている。
26km
ENERGY LABを折り返す。
1km/5:20のペースはまだ維持している。そして狙い通りカフェインが効いて気分がハイになってきた。痛みが薄れて気分が高揚してくる。
ロングではいつも太ももの筋肉が最後まで持たない。今回も太ももがすでにかなり痛い。でも今日は少し違った、痛いけどそれ以上に楽しいという気持ちが強い。
「今まで頑張ってきたんだから大丈夫、まだ粘れる」そう自分を励まして刻み続ける。
30km
30kmまでペースを維持して、まだ余裕もあるのはロングのレースでは初めてだ。
前年までロング走はロードとトレイルのミックスの30km走をやっていたのを、今年はロードのみの30kmペース走に切り替えて週1回やっていた効果か、距離に対する慣れを強く感じてあまり精神的に疲労を感じなかった。
「よし!これなら35kmまで刻めるぞ!そこから先はもう根性で行ける!」と目標を再設定して気合いを入れた。
このまま行けば目標の10時間30分を達成できる!
32km
突然胃に激痛が走る。今までのレースで起こったことのない現象だ。
脈を打つたびに胃が痛み、呼吸すら苦しい。
「ここまで来てなんだよこれ!」
とても走っていられなかった。止まって深呼吸を何回かしても胃の痛みは消えない。「とにかく進まないと」と小走りで進む。
もう回復は厳しそうと感じて、エイド間のインターバルだ。と気持ちを切り替える。
エイドまでは止まらず進んで、エイドで休む。
1km/5:20秒は維持できなさそうだったが、気持ちを切り替えてペースを下方修正する。
その中で痛みの原因を考えた。
胃は消化器官だ。水分は十分摂っていたし、過去のレース通りランのジェルは計算して摂っていたが、極度のハンガーノックかもしれない。と思いエイドでジェルを2つとクリフブロックというグミを食べた。
この時食べたCLIFジェルのモカ味がめちゃくちゃ美味しくてこれ以降ずっとモカ味を食べていた。
35km
そろそろ食べたものが消化されてエネルギーになってもいい頃だったが、未だ胃の痛みは続いて、目標としていた10時間30分は難しそうだ。
呼吸する度に胃が痛くてフォームを維持することが出来ない。
こういう時はとにかくピッチを上げてスピードを維持する。この年、ロング走をやった時後半ハンガーノックになった時の発見だ。蹴り出す力が出なくてもピッチを上げることは出来る。
38km
胃が痛くてもう走れない。そんな時トライアスロンショップ「メイストーム」の方や他の日本人の方が応援してくれた。
「脚もっと上げろ!」
「はいっ!」
継続できたのは100mくらいかもしれない。でもこの時からあれだけ痛かった胃の痛みがいつの間にかなくなっていた。
でも胃の痛みがなくなったかと思ったら太ももが限界を迎えてた。
エイドで氷をもらってウエアの太ももの所に挟む。冷たさで感覚が麻痺して少し痛みが和らぐからだ。
40km
KONAはバイクもランもアップダウン続きだが、この坂が最後の坂だ。
泣いても笑ってもあと2kmしかない、だったら笑おう。
胃が痛くなってから忘れかけていた「Keep smiling」という抱負。ここまでくるとまた観客が増える。ハイタッチや挨拶を交わしながら最後の坂を越えていく。
そして今回のKonaで同室だった人がここまで駆けつけてくれた。
「がんばれ」「もう少し」という言葉を聞く度に痛みや、終わってしまう寂しさから涙が溢れてくる。
「もう足なんて千切れてもいい」そんな気持ちで坂を登りきってMAKALAの下へ入った。
でも下りは更に辛い区間だ。太ももがガチガチに固まって筋肉の伸縮がうまくできないせでガクッガクッと下っていく。一歩踏み出すごとにとてつもない痛みが脚に響く。
でも「笑顔」だ。側から見たらただ歯を食いしばってるだけにしか見えないけど僕は笑顔のつもりで押し寄せる観客の前を通り過ぎる。
41km
MAKALAの坂を下りきり左折しKUAKINIに入るとMAKALA以上に観客がいる。
「ラストスパートだ!」と力を絞り出して走った。
観客、ボランティアへの感謝も忘れない。応援に応えハイタッチを交わしながら走る。
600m程走ると右へまがり、短い下りの後また右へ曲がってAL’I DRへ入る。
そこには見たことの無い景色が広がっていた。
観客の作り出した柵だ。
ロードレースでみるようなヒト1人通るだけのスペースが空いた観客による花道。
ハイタッチしながら走り抜ける。
少しするとゴールゲートへ続くIRONMANのマットが轢かれてその先へ夕暮れ、太陽が沈もうかとする暗がりの中に煌々と光るフィニッシュゲートが見えた。
僕が四年前、トライアスロンを始めて「KONAに行きたい」と思った理由。
KONAの動画のゴールシーンではみんな泣いて、叫んで、舞い上がってる。
みんなこんなにも感情を露わにしてるんだからきっとすごいところに違いない、ここに立ちたいと思った。
そこに自分がいるという実感が湧かなかった。動画と同じ光景、動画を見ているだけなのかと思っていたくらいだった。
この先はあまり覚えていない。
Finisher Pixの写真を見たら号泣してた。
ただまっすぐ走ってゴールした。
この舞台に来るまでカッコいいフィニッシュポーズも考えてたけど、ぜーんぶ吹っ飛んで叫んでた。
何を考えて叫んだのかもよく覚えてないけど、今までの思い出や、苦労を吐き出したかったんだと思う。
タイム4時間56秒
トータル10時間54分10秒
おわり